情意フィルター仮説(the Affective Filter Hypothesis)

 この仮説は、第二言語を習得しようとする学習者の心理を研究することから生まれたものである。

 第二言語学習者は、誰でも心理的な障壁(情意フィルター)を内面に有し、これが上昇すると、言語の習得が起こりにくくなる。

 「インプット仮説」で、発話能力は聴解能力が身に付けば自然に身に付いてくることを述べたが、このフィルターの働きを抑えられれば、インプットがスムーズに行われる理想的な状態になるとしている。

 クラッシェンは、フィルターの作用、つまりインプットの流入に関わってくるのは、次の3種類の心理的要因であると言う。

①  動機…学習者の動機が高ければ高いほどフィルターは低くなるので、習得は成功しやすくなる。

②  自信…学習者が自信を持ち、自分自身にいいイメージを持っている場合、フィルターは低くなり、習得は容易になる。

③  不安…学習者が、不安な気持ちを有している場合、フィルターは高くなり、習得はスムーズに行われない。

 学習目標の言語や文化を学ぼうとする強い動機があり、自分自身の能力に対して自信を持っており、コミュニケーションに際して(特に、間違ったり失敗したりすることに対しての)不安感の少ない学習者は、情意フィルターが低いと考えられ、習得がスムーズに進むことが予想される。

 反対に、動機付けが弱く、あまり自信がなく、不安感にさいなまれがちな学習者は、情意フィルターが高いために、習得は遅れてしまうことになる。

 このようなフィルター(心理的障壁)は、一般的には、幼児期には認められず、少年・少女期から高まってくるもので、それがまた、幼児が言語習得能力の高いことの一つの要因となっている、としている。

 以上述べてきたクラッシェンの「第二言語習得理論」は、数多くの反論を呼ぶことにもなったが、こうした論争が、第二言語習得研究を発展させ、多方面にわたる実証的研究を進めたことは、疑いのないところである。

 「第二言語習得理論」の五つの仮説は全て、この分野の中で、特に興味深いテーマを扱っている。

 そして特に、第一の仮説「習得―学習仮説」と、第三の仮説「モニター仮説」は、大人になってからの第二言語学習のあり方に、大きな問題提起をすることとなった。

 クラッシェンは、‘習得’と‘学習’を全く切り離し、‘学習’の有効性を否定し、大人でも‘習得’によって言語を身に付けることが可能だとして、そちらを奨励しているのである。

 このことに関しては、既に述べたとおりであるが、クラッシェンの説は極端過ぎると結論づけられている、と言ってもいいと思う。

 先にも書いたが、言語習得において臨界期が存在することが明らかになっているということは、言語の習得過程において、その習得の仕方に、大人と子供とでは違いがあるということであり、効率的な習得(学習)の仕方にも差異が生じるはずなのである。

 次からは、臨界期以前と以後においての、効率的な習得(学習)方法の違いについてさらに考察し、主に臨界期以後の効率的な第二言語習得(学習)方法について述べていく。

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